Ⅰ.備前焼とは
備前焼は、良質の陶土で一点づつ成形し、乾燥させたのち、絵付けもせず釉薬も使わずそのまま焼いたもので、土味がよく表れている焼き物です。
焼き味の景色は、胡麻・棧切り・緋襷・牡丹餅などの変化に富んでいますが、それらは作品の詰め方や燃料である松割木の焚き方などの工夫と、千数百度の炎の力によって七〜十昼夜かけてじっくり焼き締めた硬質の炻器(せっき)が備前焼です。
一点として同じ形も焼き味も同じものは無いと言えます。
Ⅱ.備前焼の歴史
備前市南部から瀬戸内市内には平安時代にかけての須恵器窯跡が点在し「邑久古窯跡群」と呼ばれている。この須恵器が現在の備前焼に発展したといわれている。「邑久古窯跡群」で最初に築かれた窯は瀬戸内市長船町の木鍋山
窯跡(6世紀中頃)で、7世紀後半~8世紀初頭になると瀬戸内市牛窓町の寒風古窯跡群周辺から瀬戸内市邑久町尻海周辺に窯が築かれ始め独自の発展へと進んでいった。
鎌倉時代初期には還元焔焼成による焼き締め陶が焼かれる。鎌倉時代後期には酸化焔焼成による現在の茶褐色の陶器が焼かれる。当時の主力は水瓶や擂鉢など実用本位のものであり、「落としても壊れない」と評判が良かった。
この当時の作品は「古備前」と呼ばれ珍重される。
室町時代から桃山時代にかけて茶道の発展とともに茶陶としての人気が高まるが、江戸時代には茶道の衰退とともに衰える。(安価で大量生産が可能な磁器の登場も原因)。備前焼は再び水瓶や擂鉢、酒徳利などの実用品の生産に戻っている。この当時のものは近郷の旧家にかなりの数が残されている。
明治・大正に入ってもその傾向は変わらなかったが、昭和に入り金重陶陽らが桃山陶の回帰をはかり芸術性を高めて人気を復興させる。陶陽は重要無形文化財「備前焼」の保持者(いわゆる人間国宝)に認定され、弟子達の中からも人間国宝を排出し、備前焼の人気は不動のものとなった。
第2次大戦時には、金属不足のため、備前焼による手榴弾が試作されたこともあるが、実践投入はされなかった。
2017年4月29日、備前焼は越前焼(福井県越前町)、瀬戸焼(愛知県瀬戸市)、常滑焼(愛知県常滑市)、信楽焼
(滋賀県甲賀市)、丹波立杭焼(兵庫県篠山市)とともに、日本六古窯として日本遺産に認定された。
Ⅲ.備前焼の土
備前焼の原土は伊部周辺の地下にある粘土層で「ひよせ」といいます。採土できる所は極わずかで貴重です。
作品の種類、作家の好みで山土を混ぜて使うこともあります。
ひよせは、粘りが強く耐火度は低く、陶土としては鉄分が多いです。釉薬を使わないだけに、備前焼では土に神経を使います。土づくりは、作家にとって重要な仕事です。
Ⅳ.備前焼の多彩な模様
窯床に置いてある作品が炭に埋もれ、直接炎があたらないことと、空気の流れが悪いことが相まって還元焼成(いぶし焼きの状態)になったために生じる窯変で、ネズミ色・暗灰色・青色等に発色します。
松割木の灰が焼成中に作品に付着し、胡麻をふりかけたような状態になったものをいいます。作品の多くは、灰が多くかかる棚の上に置かれ、降りかかった灰が熱で溶けて流れた状態のものを”玉だれ”といいます。今では、自然胡麻の他に人為的に胡麻を出すため灰を焼成前に作品に付けて焼くこともできるようになりました。
(3)棧切り(さんぎり)
近代では自然棧切りの他に人為的に棧切りを出すために、木炭の科学作用を応用し、窯焚きを止める直前に大量の木炭を投げ入れ、棧切りを作る方法(炭棧切り)も行われています。
本来は大きな作品や「サヤ」の中に入れられた作品がくっつくのを防ぐため、ワラを間にはさんだり巻いたりして焼いたものであり、ワラの成分と粘土の鉄分が科学反応をおこし、緋色の線が現れたものをいいます。
今では、電気窯で焼成することも多くなりました。
Ⅴ.登り窯
斜面に焼成室が連なった連房式の窯。松割り木で1週間から2週間かけて焼く。紫蘇色や緋襷、桟切、胡麻などの窯変が取れる。
Ⅵ.備前焼の特徴
(1)投げても割れぬ、備前すり鉢
備前焼は、釉薬をかけず、裸のまま、約2週間前後1200度以上の高温で焼き締めるため、強度が他の焼き物に比べると高いレベルにあります。それがゆえに、昔から「投げても割れぬ・・・」と言われるようになりました。
(3)きめ細かな泡で、うまいビール
備前焼には微細な凹凸があり発砲能力が高いことから、泡はきめ細かく泡の寿命が長いことから香りを逃がさないのでより美味しく飲むことができます。
(4)長時間おくと、うまい酒に
備前焼の内部に微細な気孔があるため、若干の微細な通気性が生じます。 これにより、酒、ウィスキー、ワインの香りが高くまろやかで、こくのある味に変身を促します。
(5)うまい料理が食せる
備前焼は、他の焼き物に比べ表面の小さい凹凸が多いため、食物が皿肌に密着しないので取りやすく、又水分の蒸発力が弱いので乾燥を防ぎます。
(6)花瓶の花が長もち
備前焼には微細な気孔と若干の通気性があるため、長時間生きた水の状態が保たれ花が長もちします。
(7)使うことで、落ち着いた肌ざわり
備前焼の表面の微細な凹凸が、より使い込むことにより角が段々と取れ、使えば使うほど落ちついた味わいを増します。
Ⅶ.制作工程
Ⅷ.高見勝代窯
Ⅸ.高見勝代さん制作風景